永久欠番になった唄

■南政五郎の朝花

笠利地方の朝花節は、男が「ヨーハレー」女性は「ハレカーナーイ」と歌い出す。
しかし、最近の男性唄者の「ヨーハレー」を聴いた記憶が、全くないのである。
南政五郎氏亡きあと、敬意を表して誰も手をつけない。

「ヨーハレーは、政五郎ウジの専売特許じゃ」と、おっしゃる声を聞いたことがある。
野球で言う永久欠番の背番号3のようなものなのだ。

当社の製品で森田照史(SE-173)が、唯一ヨーハレー派だ。
政五郎の作品は、現在 絶版となっている。

大らか、かつ、悠長、広がる海原のごときヨーハレーだった。
女性のセクシーな打ち出し「ハレカーナーイ」と合わせて聴いて欲しい朝花だ。

※朝花総集編(SE-154)で政五郎朝花は聴ける。
各集落の朝花節を比べるのには、最適の逸品。南北大島の17人の唄者で構成されている。

■正月着物(しょうがつちぎん)

「お正月の晴れ着も要らない、ボロを着たってかまわない。だから、宇検村石良(いしら)の美人を私に貰って下さい」という歌詞で始まる正月着物だ。

当時の嫁貰いの儀式を思わせる歌詞があちこちに見え隠れする。

※勝島徳郎氏(SE-164)と坪山豊(余情の唄者)、元ちとせ嬢のCD(故郷・美ら・思い)でしか聴けない。神聖さを感じさせるメロディ。
もっと、広まって欲しい島唄のひとつです。

■送り節

場面設定は、シーンと静まりかえった午後の寒村。
この唄は、奄美島唄の必須アイテム・サンシン伴奏がない。
ドンドンドンと、小さく叩いてくり返す島太鼓の音・・・。
唄者・坪山豊の声が物悲しい。
そう、これは葬送の唄、別れの唄なのだ。

「別れゆく形見になにを置いて行こうか?」
「汗のしみこんだ手ぬぐい、それが形見」

奄美の島唄が構築したこの哀愁は、カラっとした潔さを併せ持っている。
聴いた後の余韻は、懐かしさを伴っている事だろう。
死と別れは、誰にも必ず訪れることなのだから。

※坪山豊CD、(余情の唄者)に唯一収録されています。

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